世界初!国内の公共交通機関を完全無料化!


(ルクセンブルク大学のKirchberg Campusとトラム)


ルクセンブルクの電車、バス、トラムが全て無料に!

遂にこの日がやってきました。
2020年3月1日からルクセンブルクの公共交通機関は完全に無料となります。

通勤通学、観光客など問わず全ての人が無料で利用可能で、運賃という概念がなくなりました。

もともと学生は無料でしたが、電車ではゆる〜い切符または学生証の確認があったため、たまに学生証を忘れるとドキッとすることもありました。
「ルクセンブルク大学の学生だけど忘れちゃった」と言えば罰金もないし、買わずに乗っても車内で購入可能だったため、罰金のケースはほぼなかったのですが...

国内のどこまで行っても2時間有効のチケットが2ユーロ、1日乗車券が4ユーロと、
物価と比べても欧州の他の都市と比べても、破格の安さでした。
電車内で購入する場合も1ユーロの上乗せという良心的な制度でした。

バスはタダ乗りが発覚すると150ユーロの罰金というルールなのですが、毎日毎日乗ってもチェックされたことは1度もないです。性善説に基づいています。

これが全て無料になるという世界初の施策ですが、その目的は2つあるようです。



低所得者層の負担軽減

裕福な国として称されるルクセンブルクですが、急激かつ継続的な地価の上昇による家賃の高騰で貧富の差が生じています。

OECD加盟国の中で世界一高い最低賃金(月額2,142ユーロ/2020年現在)を誇りますが、失業率は5.4%(2019年10月)と決して低い数値とは言えません。

年間の住宅および地価上昇率は全国平均で約5%、Luxembourg CityやEsch-sur-Alzette、Luxembourg Cityの郊外では8%近い年間の上昇率です。
家賃上昇率はもう少し緩やかですが、3%近い年間の上昇率となっています。

つまり地主や長期的な資産として土地や物件を購入できる人以外にとって、大きな負担がさらに大きくなっているのが現状です。

実際に国境を越えた瞬間に地価が下がるため、ルクセンブルクで生まれ育ったけれども、家族でモーゼル川の向こう側、つまりドイツに引っ越して暮らす家族もいました。
子どもはルクセンブルクの学校に通い、親もルクセンブルクで働いているそうです。


(川の対岸がドイツ:橋で簡単に越境可能)

ちなみにルクセンブルク統計局による数値では、下から10%の低所得者は月に1,011ユーロで暮らしているそうです。
学生寮以外の家賃が800ユーロを下らないルクセンブルクで生活するのは極めて困難で、失業率やいわゆるホームレスの存在からも想像できます。
そして、全労働者の13%と年金受給者の10%が「貧困状態」として認められるようです。

当然「貧困状態」とは物価の高さに相対する数値のため、他国の「貧困」と比べることはできません。

最低賃金を少し上回る程度の給与でルクセンブルク国内に住む、「ギリギリ運賃を払っていた層」からすれば今回の無料化は大いに意味のあることだと思います。



自家用車の渋滞緩和

近隣の生活費が低いドイツ、ベルギー、フランスに住んで、給与の高いルクセンブルクで仕事をする人たちのことを越境通勤者と言います。

ルクセンブルクの労働人口のうち、実に45%が越境通勤者であり、毎日国境を越えて通勤しています。
しかしルクセンブルクのバスや電車はお世辞にも正確とは言えず、多くの人たちが自家用車で通勤しています。

またルクセンブルク国内の高所得者層や中所得者層は1人1台の車を持ち、中には1人5台以上の車を持っている人たちもいます。
彼らも多くが車で通勤をするため、通勤と帰宅時の渋滞がひどいのです。

これを緩和することが、今回のもう一つの目的ですが効力があるかどうかは疑問です。

なぜならEU内で居住者あたりの登録自家用車数の台数が1位で、既に国内に多数の車が存在するからです。
また国内就業者の60%が自家用車通勤をしており、公共の交通機関を利用している人たちは19%にすぎません。

ルクセンブルク大学にも大きな駐車場があり、車で通勤/通学する人たちが多くいます。

こうした人たちがより電車やバスを使うようになるためには、遅延やキャンセルを減らし交通網ネットワークを改善する必要があります。

そこでルクセンブルク政府は、2025年までに公共交通機関の利用者が20%増加する目標と施策を打ち出しています。

2023年までに22億ユーロの投資をもって、電車のネットワークの改善、ドイツ/フランス/ベルギー越境ネットワークの改善、電車/バス/トラムの乗り換えハブの増設などを行うそうです。

しかし、なかなか工事が進まないルクセンブルク。笑
本当に改善されるのはいつになるのか不明です。



運賃収入と税金:財源はどこから?

今日開始となる国内公共交通機関の無料化前は、運賃収入が存在しました。
とは言え、20歳以下の人や30歳以下の学生や最低賃金給与所得者などは元から無料でした。

今までは年間の運賃収入が約4,100万ユーロ(約49億円)に対して、年間のオペレーションコストが4億9,100万ユーロ。
つまり運賃収入はコストの10%にも満たず、残りは全て税金で賄われていました。

今回の無料化によって必要になる追加予算は極めて少なく、政府の負担は非常に小さいものです。
日本とは異なり、国が小さく、元から支出における税金比重が高かったからこそ可能になりました。

留学中に訪ねてくれる友人や家族なども切符を買う必要がなくなるとなると、身近なところでも恩恵を受けられそうです。
また留学生にとって毎日利用する電車やバスやトラムが改善されるのは嬉しいことです。

すぐキャンセルしたり遅延するため、ルクセンブルクの公共交通機関は自虐ネタとしてよく使われますが、引き続き今後の発展に期待したいと思います!



(なかなか良い動画です)


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